ブルガリア紀行(掲載写真は以前朋香先生が撮影されたものです。)


今年で4回目になる ブルガリア東部、黒海沿岸で行われる“オンデイ−ヌ夏期音楽講習会”。8月24日に出発し,25日にミラノ経由でソフィア入り。
ミラノまで12時間、そこからソフィアまで2時間で25日の深夜、ほとんど26日にソフィア到着。そこで一泊して、次の日バスに揺られ8時間以上かけて現地にいくという強行軍。長旅の疲れと不安とを抱えて到着した私達を迎えてくれるのは目の前に広がる広大な黒海。
今回は年齢層が高く、大学生以上の受講生、ピアノ7名、ソプラノ3名をつれての滞在。その半数以上がリピ−タ−、何故か魅力的な講習会のスタ−ト。受講生は日本人、ロシア人、韓国人、フランス人、そしてブルガリア人。講師は総括しているブルガリアで著名なピアニストのザハリエヴァ女史を初めロシア、フランスから多数、そして私達。2週間の間 5回のレッスンがあり、毎日2,3時間の個人練習時間を組み込まれ、期間中2回もしくはガラコンサ−トをいれる3回はコンサ−トに出演でき、希望者は“オンデイ−ヌコンペテイション”を受けられる。このコンペテイションは小さい規模のものだが海外の受講生と競えるということもありリゾ−ト地での講習会の空気をぐっと引き締めてくれる。





* 滞在生活*

2人1コテ−ジ。ほとんどがドイツ人の長期滞在者で掲示板等もドイツ語で書いてある。1回目の時などは本当に私達日本人が珍しかったのか写真をかなり撮られたようだ。“ポ−ズをとらずにまっすぐ立て”と、まるで証明写真のようだったと生徒達は言っていた。又、すこしむかつくが、しみじみ眺めた後“本当に黄色いね”との発言。
海でもプ−ルでも泳げ、温泉もあり、馬にも乗れ、テニスもでき等とにかく必死で遊べるところだがゲ−ムや映画など文明の王者たちは一切なし。これが多岐にわたる娯楽、情報に囲まれた私達にとって新鮮であり、また来たいと思わせる何かを生むようだ。何年か前、高校生の受講生が“なにもないってことがこんなに集中出来るとは知らなかった”と。いろんなものが便利にあることが、沢山の選択肢があることが必ずしも幸せではありえないということを身をもって感じさせられる。又、その不便さの中、とても状態の悪いピアノで練習しながら次第に同じ受講生、特にほかの国の受講生に対して負けたくないという心が芽生えてくるようだ。つくづく今の日本の子供達は必死にならない、無気力と言われるが、“こんなにも日本人は賢く、頑張れる力を持っているんだ”と、ある種の感動を覚えるほどだ。
ハ−ドな練習、レッスンと美しい自然だけ。たったそれだけ、しかし最高の贅沢。たったそれだけしかないことの贅沢さと身体に染み渡る濃厚な瑞々しい充実感がまたの訪れを心に誓わせるのかもしれない。





* 贅沢な自然*

その自然といえばこれ以上の贅沢はないもの。8時間以上バスに揺られ、ほとほと疲れ果てても行く価値ありという代物。透き通る海、ウミネコや水鳥達、そして何よりも天然のイルカ達がすぐ目の前で気持ちよさそうに泳いでいく。天気のよい、波のない午前中が狙い目。ゆるやかに波の間を泳いでいるイルカが、滞在者達が泳ぐ砂浜のすぐ近くに来る。“幸せを運ぶ”と言うが、どの国の人達もイルカを見ると拍手し、その後、静かに見とれる。とても興奮したのは主人と二人でカヤックに乗って沖のほうに出たとき私達の前方10メ−トル先にイルカ!陸から眺めてるのではなく同じ線上にいることに言い様もない感動と興奮。もっと目の前に現れたらな−と思ってみたものの、いざ もう海の底もなにも見えない深い海の上で、枯葉の様に波に漂うカヤックに乗って、その真横にいきなりイルカが出てきたら、これはかなり恐いかもしれない。





* オ−ケストラとの競演*

昨年から催されている受講生によるコンツエルトの夕べ。ほぼ黒海での2週間の行程を終え、又バスに揺られてソフィアに戻った次の日に行われる講習会最後のコンサ−トであり、最大のコンサ−ト。私達も毎年4月にコンサ−トやコンク−ルの審査で訪れ、お世話になってる水晶の博物館(通称ミユ−ゼウム)で開催される。今年はバッハのヴァイオリンコンツエルト、ハイドンのピアノコンツエルト、モ−ツアルトのピアノコンツエルト、6人の受講生がプロのブルガリアのオ−ケストラと協演した。通常、日本でオケとやるとなるとそりゃそりゃ莫大な費用がかかるものをブルガリアではもちろん小編成なオ−ケストラとはいえ日本に公演に来たこともある指揮者との競演でなんと200USドル!ちなみに物価は日本のほぼ10分の1.ただEU加盟を間近に控えどんどん町が西側色が濃く、近代的になり物価がどんどんあがってきている。私達は年に2回ソフィアを訪れているが、その成長振りは目を見張るものがある。6年くらい前、初めて訪れた時は本当に何もなく、首都ソフィアですら不便さを感じる素朴な町で、過ごしていると不思議とどんどん居心地が良くなっていったのを憶えている。今のほうがずっときれいで便利になっているが、何だか資本主義が入ってくると世界中、どこでも同じ顔になっていくようでどこか寂しい。振り返るとあの素朴さが心の中で宝石のように光ってる気がする。
横にそれたが、そんな訳で信じられない安さで、何にも変え難いオ−ケストラとの競演を経験出来る願ってもないチャンスなのだ。さすがどの面々もこちらが手に汗握るほど緊張していたが、その中でそれぞれ若い力で素敵な演奏でお客様をもてなしてくれた。そして出演しない受講生達は先生達へのお礼を込めて沢山の美しい花束を用意してくれ、それが文字どうり華を添えてくれた。





* 生徒達の楽しみ*

私達講師と受講生とは食事も同じエリアで、又リゾ−ト地のためとてもリラックスして、普段のレッスンよりも近い関係で過ごしていると思う。しかしそれ以上に私達の見えないところで楽しんでるようだ。日中、レッスン、練習に明け暮れている姿しか見てないが、外国の受講生達と別れるのが辛く、皆涙涙となるまで親しく打ち解けているのには毎年ながら驚かされる。若い柔軟性と外に出ることなく2週間一つところで同じ空気を吸っているからかもしれない。普通、日本でのレッスンだとうまくいかず怒られ落ち込めば、自分の家だの他の場所だのに逃げられるし諦めることも簡単だ。こちらも別の場所へいってるものをどうしようもなく次ぎのレッスンまで待つしかない。そして迎えたレッスン、上達することなく同じ状態だということは多々ある(私も学生時代あったし)。しかしここだと楽しく(アルコ−ルも飲み放題)過ごしながらも隔離された世界で逃げも隠れもできず、別の意味で逃げることを諦めて、必死になり、1,2日の間に恐ろしく変化を遂げるのを目の当たりにする。合宿といわれるものの効果はこういうところにあるのだろう。そんな究極の追いこまれ方をし、今まで出さないような集中力で向かっていくなかで尚更生徒間の連帯感は生まれるのかもしれない。最後の夜、恒例で生徒達を食事に招待するが、そんな時、言葉が通じる通じないとか取払ったところで幸せそうな笑顔で親しく交流する姿を見るとこちらまで幸せにさせられる。


* ブルガリア犬事情*

さて思いつくままに書いてきましたが最後に大好きな犬のこと。
ソフィアは首都といってもとても緑が多く、また日本と違って湿度が低いのでお天気の良い日はとても散歩が気持ちいい。ソフィアの町を歩くときの何よりもの楽しみが散歩中の犬を探すこと。探すといっても日本よりはるかに犬密度が高いのでいつでも目に入る。ほとんどが大型犬。超がつく場合も多い。ここ2年程で小型、中型犬も見るようになったが、滅多に出会わない。ある時道の反対側に林田先生のところにもいるシェルテイ−がいたので見ていたら何か違う。そう連れてる人とのバランスが違う。なんとシェルテイ−ではなく、姿形が似てるがぐっと大型のコリ−だった。日本では咋今、コリ−は滅多におらず、あの手の犬種なら小型のシェルテイ−なのでその感覚でみていたら・・・やはり大型犬の国である。なかでも一番多く見るのがシェパ−ド。ある時など、若い細い女性が6頭のシェパ−ドを連れて歩いてるのにはびっくりした。政府要人を取り囲んで護るSPよりもっとガ−ドが堅いかもしれない。日曜ともなると公園にシェパ−ドが10頭程集まりお勉強会が開かれている。血気盛んなシェパ−ド軍団。
犬を見ると見境がなくなり制御ボタンが一斉にきかなり、毎回公園を散歩している大型犬軍団につっこんでいく。人懐こいノ−リ−ドの大型犬達に取り囲まれる至福の時だ。多分、私が一番幸せな笑顔をしてる時かもしれない。主人のほうは少し離れたところで制御不能になり興奮気味の犬化した私を煙草を吸いながら眺めている。人生、諦めが肝心とばかりに。
さて、爽やかな魅力溢れるブルガリアに度々行けることに感謝し、その度にお留守番させられる犬(黒ラブ・ゴン蔵)、他猫4匹にごめんなさいを言いつつ、来年の春はバッハの2台のピアノのためのコンツエルトを弾かせていただきたいなと心弾ませながらこのブルガリア紀行を終わりにします。長々お付き合い有難うございました。


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桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ専攻卒業。声楽・器楽の伴奏、室内楽のリサイタルに数多く出演。弘中孝・岡村梨影・山岡優子の各氏に師事。現在、活水女子大学音楽学部非常勤講師。(株)日本演奏家連盟会員。くわしくはMMA概要へ。

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